ダウン症候群の赤ちゃん

呼吸器感染症にかかりやすいダウン症候群児の特徴

ダウン症候群の子どもで先天性心疾患のある場合は、肺の機能にも影響し、呼吸器感染症にかかりやすいことが知られています。しかし最近では、ダウン症候群の子どもは、心疾患がなくとも呼吸器疾患を合併していたり、呼吸に関わる筋肉では筋緊張(きんきんちょう)(筋肉の状態)が低下して呼吸をする力が弱かったり、また、免疫力の低下などが影響して、呼吸器感染症にかかりやすく、重症化しやすいことがわかってきました1)
ここでは、とくに呼吸器感染症に注意していただきたいダウン症候群児の特徴をわかりやすく説明しました。病気の理解と、体調管理にお役立てください。

ウイルス感染症または呼吸器感染症で入院したことがある

入院が必要となるほどの気管支炎や肺炎に一度かかると、さまざまな原因から呼吸器感染症にかかりやすくなり、その後、感染を繰り返す傾向になることがあります。医療の進歩により元気に日常生活へ戻る子どもも多くなってきましたが、呼吸器感染症は、いまだダウン症候群児の死亡原因のひとつとして重要な位置を占めています。感染症にかからないために、しっかりと予防することを心がけましょう。

心疾患がある(肺への血液量が多くなる)

心疾患で左右の部屋を隔てている壁に孔(あな)が開いていると、左側の部屋(左心房(さしんぼう)・左心室(さしんしつ))から右側の部屋(右心房(うしんぼう)・右心室(うしんしつ))へ血液が流れ込むため、肺へ流れる血液が多くなります。その結果、肺うっ血や肺高血圧症になったり、肺血管が太くなり空気の通る気道を圧迫したりするため、呼吸機能が低下し、呼吸が速い、呼吸困難、陥没呼吸(かんぼつこきゅう)などの呼吸症状がみられます。

肺の血流量が増える主な心疾患1)

肺の血流量が増える主な心疾患_イラスト

心臓の仕組み

心臓は4つの部屋に分かれています。左側の部屋(左心房(さしんぼう)・左心室(さしんしつ))からは、酸素の多い血液が全身へ送られます。右側の部屋(右心房(うしんぼう)・右心室(うしんしつ))からは、全身から戻ってきた酸素の少ない血液が酸素を補給するために肺へ送られます。

呼吸器系に合併症がある

生まれつき呼吸器系になんらかの合併症があると、呼吸機能がうまくはたらかず、換気が悪くなり感染症にかかりやすくなります。とくに次のような疾患や症状がある場合には注意が必要です。

喉頭軟化(こうとうなんか)症、気管・気管支軟化症1)

のどの構造が柔らかく弱いため、奥に引き込まれたり、鼻や口から肺への空気の通り道(喉頭や気道)がつぶれて変形し気道が狭くなったりする疾患です。息がしづらく呼吸器障害がみられ、ゼイゼイと息をしたり、ミルクを飲むときにのどがごろごろ鳴る症状がみられます。また、喉頭軟化症では胃の中に入ったミルクや食べ物が口まで戻ってきてしまう「胃食道逆流(いしょくどうぎゃくりゅう)」を合併することがあります。胃の内容物が胃酸と一緒に気道を通るため、気道の表面が傷つけられ、感染症のリスクが高まります。

呼吸器の構造2)

呼吸器の構造_イラスト

気管の断面図

気管の断面図_イラスト

肺への空気の通り道である“気道”の構造が弱いため、呼吸時に気道が狭くなります。

無呼吸(むこきゅう)1)

子どもが小さいうちは呼吸中枢が未熟なため呼吸が止まってしまうことがあります。これを無呼吸といいます。通常は、からだの中に二酸化炭素が溜まると呼吸中枢(こきゅうちゅうすう)がそれを感じ取って呼吸を再開させます。呼吸中枢が成熟するにしたがって無呼吸を起こすことはなくなりますが、回復がみられず、からだに影響が出るような場合は、呼吸を管理するモニタをつけて呼吸の状態を見守る必要があります。無呼吸は中枢性のほかに、痰(たん)などが気道につまって起こる閉塞性(へいそくせい)のものもあります。たとえば、RSウイルスなどの感染症にかかった場合、痰などの気道からの分泌物が細い気道にたまり、気道が狭くなったりつまったりすることで起こります。

肺低形成(はいていけいせい)・気管支肺異形成(きかんしはいいけいせい)1)

肺胞(はいほう)や気管支などの数が少なかったり、肺の大きさが小さいなど、呼吸器官の発育が未熟な状態を肺低形成といいます。また、生後の呼吸の問題のため長期間人工呼吸器を使ったり、肺炎になったりして、肺に水がたまったり肺胞が発達しにくくなる状態を気管支肺異形成といいます。このような状態では呼吸障害が起こりやすくなるため、生まれてすぐに酸素投与など呼吸補助を行うことが多くなります。

呼吸器の構造3)

呼吸器の構造_イラスト

巨舌(きょぜつ)、舌根沈下(ぜっこんちんか)

舌の幅や長さが長い巨舌や、舌の根元が喉のほうに落ち込んでしまう舌根沈下では、気道が塞がるなどの呼吸障害が起こることがあります。

肺高血圧(はいこうけつあつ)

心臓から肺に血液を送る肺動脈が狭くなったり、硬くなったりすることで、肺動脈の血圧が高くなった状態を肺高血圧といいます。心臓に負担がかかり、全身に酸素を十分に供給できなくなるため、息切れや呼吸困難がみられます。

肺気腫様変化(はいきしゅようへんか)

肺気腫のように、肺胞の壁が壊れ、ひとつの肺胞の部屋が大きくなります。すると、空気を押し出すことが難しくなり、呼吸困難などの症状がみられます。

免疫のはたらき

免疫とは、病気の原因になるウイルスや細菌がからだに入ってきたときに、増殖を防いだり排除したりするようにはたらく、からだのしくみのことです。免疫には、もともとからだに備わっている【自然免疫】と、成長していろいろな病原体に接触することで免疫力が上がっていく【獲得免疫】があります。

免疫がはたらいていない場合_イラスト

免疫がはたらいていない場合

ウイルスなどの病原体の侵入をゆるしてしまうため発病し、重症化します。

※イメージ図
免疫がはたらいている場合_イラスト

免疫がはたらいている場合

病原体を攻撃する免疫細胞(マクロファージ、好中球、リンパ球など)や、免疫物質である抗体が病原体を排除し、発病を阻止します。

抗体とは?

免疫の中心的役割を担っているもののひとつが体内でつくられる“抗体”です。抗体は、ウイルスや細菌に結びつき、感染を防ぐはたらきをします。

感染症防御の主役となる免疫細胞と抗体

自然免疫

からだに入ってきた病原体にすぐに対応する免疫細胞が、好中球(こうちゅうきゅう)、マクロファージ、ナチュラルキラー(NK(エヌケイ))細胞などです。これらの細胞は病原体を飲み込んだり、感染した細胞を壊したりすることで、感染を広げないようにはたらいています。

獲得免疫

より複雑なしくみで病原体を排除するようにはたらきます。リンパ球(T細胞、B細胞)がからだに侵入したことのある病原体の特徴を覚え、2回目以降の侵入からは強力に反応するので、同じ病原体に触れる機会がある場合に発病しにくくなります。

自然免疫、獲得免疫_イラスト
※イメージ図

ダウン症候群児では、とくにNK細胞、あるいはT細胞やB細胞が少ないため、B細胞が産生する“抗体”も少なく、感染症に対する抵抗力が弱いと考えられています。

  • 1)

    一般社団法人 日本新生児成育医学会 編. 新生児学テキスト. メディカ出版. 平成30年12月第1版

  • 2)

    牛木辰男, 小林弘祐 著. カラー図解 人体の正常構造と機能Ⅰ呼吸器 第4版. 日本医事新報社. 令和3年

  • 3)

    楠田 聡 監. 新生児の疾患・治療・ケア: 家族への説明に使える! イラストでわかる. メディカ出版. 平成28年4月第2版

監修:長谷川 久弥 先生
東京女子医科大学附属足立医療センター 新生児科 教授