ここでは、小児にみられる心臓の病気(心疾患)の病態について説明します。
先天性心疾患にはさまざまな病気があります。
心臓の中隔に孔(あな)が開いたり、大血管と心臓のつながりが逆になったりズレたり、心室の出口や入口が狭かったり塞がってしまったり、また、弁がしっかり閉じなくて血液が逆流したりします。このような異常は単独でも病気になりますが、2つ以上合わさった心疾患もあります。
これらの心疾患の分け方はいくつかありますが、ここでは、心臓の病気を注意すべき症状との関連でまとめます。
個々の病気については主治医にお尋ねください。
肺の血流量が増える心疾患
肺へ流れる血液が多くなりすぎると、肺はうっ血して、肺血管は太くなり空気の通る気道を圧迫します。
肺うっ血がひどくなると、呼吸症状(呼吸が速い、呼吸困難、陥没呼吸(かんぼつこきゅう)など)がみられるようになります。
また、限られた肺血管の容積では肺はたくさんたまった血液を受けきれなくなり、血管内の圧力が上がり、肺高血圧となります。
さらに、増えた肺への血液は心臓に戻り、心臓は増えた分だけ余分に血液を送り出す仕事をすることになります。仕事が増えすぎたり、肺高血圧があると、心不全になります。
このような状態が起こる原因として、心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)(イラスト参照)など、心臓の中隔(ちゅうかく)に孔(あな)が開いている病気があります。
代表的な疾患1)
- 心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)
- 動脈管開存(どうみゃくかんかいぞん)
- 心房中隔欠損(しんぼうちゅうかくけっそん)
- 房室中隔欠損 (ぼうしつちゅうかくけっそん)
注意が必要な症状など
感染症
とくに気管支炎や肺炎にかかりやすくなります。
心不全の症状1)
- ミルクを飲む量が減る
- ミルクを飲むのに時間がかかる
- 体重が増えない
- 呼吸症状(呼吸が速い、呼吸困難、陥没呼吸(かんぼつこきゅう))がある など
肺の血流量が正常な心疾患
肺の血流量は正常でも、心房や心室の出入口が狭くなっている病気があります。
右心室の出口にある肺動脈弁やその周りが狭くなっている肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)1)、左心室の出口にある大動脈弁やその周りが狭くなっている大動脈狭窄(だいどうみゃくきょうさく)1)などです。
たとえば、肺動脈狭窄1)は、軽いときは無症状ですが、中程度のものでは年長になるにつれて、運動時に息切れや動悸(どうき)が現れ、心不全や不整脈が出ることもあります。重い場合は、赤ちゃんのときに心不全症状が出て、カテーテル治療が必要になることもあります。
代表的な疾患1)
- 肺動脈(弁)狭窄(はいどうみゃく(べん)きょうさく)
- 大動脈縮窄(だいどうみゃくしゅくさく)
- 大動脈(弁)狭窄(だいどうみゃく(べん)きょうさく)
注意が必要な症状など
- 赤ちゃん
心不全症状
- 小児期以降
運動時の息切れ・胸痛・疲れやすさ・失神
心不全症状
不整脈 など
運動時には要注意!
運動している筋肉に十分な血液を送るため心臓の仕事が増えます。狭い部分があればそれに打ち勝って仕事しなくてはならず、心臓が無理をします。
これが限界を超えれば、心臓は悲鳴を上げてしまいます。運動時の息切れや胸痛はそのサインです。
肺の血流量が少ない心疾患
ファロー四徴症(しちょうしょう)1)のように、肺動脈狭窄(はいどうみゃくきょうさく)と心室中隔欠損(しんしつちゅうかくけっそん)など、2つ以上の異常が合わさった病気が多いです。重い場合には、肺動脈が閉鎖しています。肺に血液が流れにくいので、からだから戻ってきた酸素の少ない血液の一部が肺へ行かずに、そのままからだに流れてしまい、からだの酸素が少なくなってチアノーゼが出るので、チアノーゼ性心疾患といわれます。肺の血流量が少なくなればなるほど、酸素の取り込みも少なくなるので、チアノーゼが強くなり重症です。酸素をできるだけ多く取り込もうと、呼吸は速くなります。ファロー四徴症(しちょうしょう)を代表とする肺動脈狭窄のあるチアノーゼ性心疾患では、“チアノーゼ発作(スペル)”に注意することがとても重要です。
その他のチアノーゼ性心疾患
酸素の多い血液がうまくからだに回らない心疾患で、チアノーゼや呼吸困難が起こります。からだが重い酸素不足になり、治療しなければ、赤ちゃんのうちに亡くなる場合が多い病気です。複雑な病気が多いので、詳しいことは主治医にお聞きください。
代表的な疾患1)
- 完全大血管転位(かんぜんだいけっかんてんい)
- 大動脈弓離断(だいどうみゃくきゅうりだん)
- 三尖弁閉鎖(さんせんべんへいさ)
- 総動脈幹遺残(そうどうみゃくかんいざん)
- 単心室(たんしんしつ)
- 左心低形成症候群(さしんていけいせいしょうこうぐん)
- 総肺静脈還流異常(そうはいじょうみゃくかんりゅういじょう)
注意が必要な症状など
チアノーゼが続いたり、進行すると…
チアノーゼが軽く、日常生活に支障が出ない場合でも、病院での検診をきちんと受けましょう。この状態が長く続くと、以下のことが起こる場合があります。
すぐに息があがる
歩行や着替えなど、日常生活に支障が出るようになります。
指先が「バチ指」になる
チアノーゼの状態が長く続くと、指先が太鼓のバチのように太くなります。
チアノーゼ発作(スペル)
寒い朝、哺乳時/後、排便時/後などに、急に呼吸が速くなりチアノーゼが強くなって、泣いたり、逆にボーッとしたりする。
パルスオキシメータをお持ちの場合は、普段の酸素飽和度と比較して値が低下していないか確認しましょう。
頭痛、手足の痛みが出る
とくに寒い日に多く出ます。
脳梗塞、ひきつけ、意識障害
酸素不足を補うため、赤血球が増えることで、血液の粘性が高くなるため、血管が詰まりやすくなります。
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一般社団法人 日本新生児成育医学会 編. 新生児学テキスト. メディカ出版. 平成30年12月第1版